社長がパワハラ上司。適応障害で休職し、退職代行を使わずメールだけで辞めた話

1. 逃げ場のない小さな会社で

私が働いていたのは、社員数の少ない小さな会社だった。企画営業として入社し、日々の業務報告も、指示も、評価も、すべて直属の上司である社長から直接受けていた。

普通の会社なら、上司との関係がうまくいかなくても、人事部に相談する、他の部署に異動する、せめて別の先輩に愚痴をこぼす、といった逃げ道がある。でも、社長が直属の上司という環境には、そのどれもなかった。会社の中で一番偉い人が、自分を追い詰めている本人だったからだ。

「辞めたい」と思っても、その気持ちを打ち明けられる相手が社内に誰もいない。そんな状態がどれくらい人を追い詰めるか、当時の私は身をもって知ることになった。

2. 労災、そして休業中も鳴り続けた連絡

ある時、仕事中に労働災害という形で怪我をした。体の話だけならまだよかったのかもしれない。問題はそこからだった。労災で休業している間も、社長からの連絡が止まらなかったのだ。

休んでいるはずなのに、電話が鳴る。メールが届く。本来、療養に専念すべき時間に、気が休まる瞬間がなかった。体の怪我よりも、そのやり取りの方が私を消耗させていった。

そしてしばらくして、心療内科で「適応障害」の診断を受けることになった。仕事が原因で心が壊れていく感覚は、自分でもはっきりと自覚できるほどだった。

3. 「原因は社長です」——医師に退職を勧められた日

適応障害の診断を受けてから、私は休職に入った。給料の3分の2程度を受け取りながら、約2ヶ月半、療養に専念する期間をもらった。

本来なら、このまま治療を続けながら会社に戻る、という選択肢もあったはずだ。実際、医師からも最初は「このまま通院を続けましょう」と言われていた。

でも、通院を重ねる中で、医師との話し合いの結論は変わっていった。

「あなたのこの病気の原因は、会社の社長にあります」

そう言われた時、どこかで自分でも薄々分かっていたことを、専門家の言葉で突きつけられた気がした。医師からは、このまま同じ環境に戻ることは回復の妨げになる、という理由で、退職を強く勧められた。

会社を辞めるという決断は、キャリアの話である以上に、これは治療の一環だった。

4. なぜ退職代行を使わず、メールだけで辞められたのか

当時、私は退職代行サービスという選択肢を知らなかった。今振り返ると、それでも何とか辞められたのには理由がある。

一番大きかったのは、適応障害の診断書だった。診断書があったことで、「体調を理由に電話でのやり取りができない」という事実が、単なる私の主張ではなく、医師のお墨付きのある事実になった。これを盾にして、私は社長との連絡手段を電話ではなくメールのみに限定することができた。

退職の意思表示自体は、法律上、口頭でもメールでも効力に違いはない。民法では、期間の定めのない雇用契約は、退職の意思を伝えてから2週間が経過すれば終了すると定められている。会社の承諾を待つ必要すらない。この仕組みを、当時の私は診断書と一緒に武器にしていた。

もちろん、簡単だったわけではない。会社とのやり取りは何度かこじれたし、必要な書類のやり取りも、送った・届いていないの行き違いが何度もあった。それでも、電話は一切使わず、最後までメールだけで押し通した。

振り返って思うのは、これができたのは「診断書」という後ろ盾があったからこそで、誰にでも同じようにできるとは限らないということだ。もし診断書がなかったら、もし社長がもっと強引に電話をかけ続けてきたら、私はメールだけで乗り切れなかったかもしれない。

5. もし当時、退職代行を知っていたら

正直に言うと、当時の私は、メールのやり取りだけでもかなり消耗した。届いたメールを開く瞬間、心拍数が上がる感覚は今でも覚えている。

退職代行サービスは、この「本人が一切会社とやり取りをしなくていい」という部分を、まるごと代行してくれる。診断書という盾がなくても、最初から会社との接点そのものを断つことができる。

つまり、私がやったことは「セルフでどうにかした退職代行」に近い。診断書を武器に、電話を断り、メールだけで押し通す。もし当時、退職代行というサービスの存在を知っていたら、あの消耗の大部分は他人に肩代わりしてもらえていたはずだ。特に、診断書がまだ出ていない段階や、社長からの連絡そのものを見たくないという人には、代行サービスの方が確実で安全な選択肢になる。

自力でやるか、代行に頼むか。この境界線は、正直「診断書などの後ろ盾があるかどうか」と「会社からの連絡に、自分がどこまで耐えられるか」にあると思う。

6. 退職後: 特定理由離職者としての失業保険、そして職業訓練

会社を辞めた後の話も、少しだけ書いておきたい。

適応障害が理由の退職だったため、私は「特定理由離職者」として扱われ、通常の自己都合退職とは違い、待機期間なしですぐに失業保険を受け取ることができた。この制度を知らなかったら、収入がない状態で数ヶ月耐えなければいけなかったはずなので、これは本当に助かった。

さらに、失業保険を受給している期間中に職業訓練を受けることができ、そこから約半年間は、勉強をしながら失業保険を受け取り続けることができた。辞めた直後は正直、この先どうなるか分からない不安の方が大きかったが、この制度のおかげで、次に進むための時間と学びの両方を確保できた。

7. 同じように悩んでいる人へ

社長が直属の上司、逃げ場のない小さな会社、そして心が壊れていく感覚。当時の自分と同じ状況にいる人が、この記事を読んでいるかもしれない。

もし今、電話一本すら怖いと感じているなら、それは甘えでも弱さでもない。診断書という後ろ盾があるなら、メールだけで進める道もある。それすら難しいと感じるなら、退職代行というプロの手を借りる道もある。どちらを選んでも、自分を守るための正当な手段だ。

具体的な退職代行サービスの比較や、特定理由離職者の申請の流れについては、それぞれ別の記事で詳しくまとめている。

(この記事は個人の体験談であり、法的な助言ではありません。退職手続きや制度の利用については、必要に応じて専門家にご確認ください。)

コメント

タイトルとURLをコピーしました