適応障害と診断されて、退職や休職を考え始めたとき、多くの人が最初につまずくのが「診断書は結局何枚必要なのか」という点です。
「病院でもらった診断書を、退職のときも、休職のときも、雇用保険の手続きのときも、同じものを使い回せばいいのでは」と思ってしまいがちですが、実はそれぞれ確認してほしい相手も、記載してほしい内容も違います。同じ1枚で済ませようとした結果、後になって「この内容だと手続きが進めにくい」と言われてしまうケースもあります。
この記事では、①退職のときに会社へ渡す診断書、②休職のときに会社へ提出する診断書、③退職後の雇用保険の手続きで参考にされる診断書、この3つの違いを整理します。
前提:診断書は「誰に何を伝えるか」で中身が変わる
診断書そのものに全国共通の決まった様式があるわけではありません。医師が医学的な所見にもとづいて作成する書類で、記載してもらう内容は、それを「誰が」「何のために」使うかによって変わってきます。
- 会社に「退職したい」ことを伝えるための診断書
- 会社の休職制度を使うための診断書
- 退職後、雇用保険の離職理由の確認で参考にされる診断書
この3つは目的が別なので、内容が重なる部分もありますが、そのまま流用できるとは限りません。以降で、それぞれどんな内容が求められるのかを見ていきます。
①退職のときの診断書
退職の意思を会社に伝える際、診断書の提出は法律上の義務ではありません。ただ、心身の不調が理由であることを伝える資料として添えると、話が進みやすくなる場合があります。
- 提出は基本的に任意
- 「適応障害」という病名まで会社に伝えたくない場合、その旨を医師に伝えておけば「心身の不調により療養が必要」といった記載にとどめてもらえることもあります
- 退職日をいつにするかは、雇用形態や契約内容、就業規則によって扱いが異なります。無期雇用の自己都合退職は、民法上は申し入れから2週間で退職できるのが原則的な基準ですが、実際にいつから休めるか・引き継ぎをどうするかは会社との話し合いや個別の事情によって変わるため、「診断書があれば必ずすぐ辞められる」と断定はできません。対応に迷う場合は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談するのも一つの方法です
退職時点では「今後どうするか」がある程度はっきりしていればよいので、比較的シンプルな内容で足りることが多い診断書です。
②休職のときの診断書
休職は会社の制度(就業規則)にもとづくものなので、内容や様式は勤務先によって異なります。会社所定の様式がある場合はそれを使い、ない場合は医師の自由診断書で対応することになります。
一般的に求められる記載内容は次のようなものです。
- 病名
- 療養に必要な期間の見込み(休職期間のベースになる情報)
- 就業上の配慮が必要かどうか、必要ならどのような配慮か
ここで注意したいのは、休職期間は診断書の見込み期間だけで自動的に決まるわけではないという点です。会社の就業規則に定められた休職の上限期間との兼ね合いで、最終的な期間が決まります。また、復職時には、就業規則や会社の運用により、就労可能であることを示す診断書の提出を求められることがあります。会社によっては主治医の診断書に加え、指定医の診断などを定めていることもあります(厚生労働省Q&A)。
③退職後、雇用保険の手続きで診断書が関わる場面
退職後に雇用保険の基本手当(失業給付)を申請する際、適応障害などの心身の不調が理由での離職と認められると、「正当な理由のある自己都合離職(特定理由離職者)」として扱われることがあります(ハローワーク公式。心身の障害・疾病等による離職は、この「正当な理由がある自己都合」に含まれるとされています)。この場合、通常の自己都合退職に適用される離職理由による給付制限がかからない可能性があります。ただし、7日間の待期は離職理由にかかわらず必要で、受給資格や所定給付日数は雇用保険の加入期間などによっても異なります。
ここで診断書が関わってくるポイントは、大きく分けて2つあります。
(1)離職理由の判定のための資料
離職理由が「病気等によるものだったか」「当時、仕事の継続が困難な状態だったか」を確認するために、医師の診断書などが参考資料として使われます(厚生労働省の資料)。ここで中心となるのは、あくまで離職に至った経緯と、当時の就労困難さであり、「その後いつ回復したか」まで診断書に書かれていることが必須というわけではありません。
(2)退職後もすぐには働けない場合の「受給期間延長」
一方で、退職後も心身の不調により30日以上続けて働けない状態にある場合は、基本手当をすぐに受給する段階ではなく、まず「受給期間延長」の手続きを検討する流れになります。基本手当は「就職しようとする意思といつでも就職できる能力があるのに就職できない」状態が前提のため、療養に専念している間はこの延長制度を使い、回復して求職活動ができる状態になってから基本手当の手続きに進みます(ハローワーク公式Q&A)。
つまり、「いつ回復して働けるようになったか」という情報は、①離職理由を判定するための診断書に必ず書くべき項目というより、②受給期間延長のあと、いつから求職活動を始められるかを考える際に関わってくる情報、と分けて理解しておくと整理しやすくなります。
必要書類や個別の判断はケースによって異なるため、離職票を受け取ったら、まずは管轄のハローワークに相談しながら進めるのが確実です。
3つの診断書の比較表
| 目的 | 主な提出先 | 確認したい内容 |
|---|---|---|
| 退職の相談・事情説明 | 会社 | 就業継続が難しい事情 |
| 休職制度の利用 | 会社 | 療養見込み期間、就業可否・配慮 |
| 雇用保険の離職理由確認 | ハローワーク | 病気等で離職に至った事情、当時の就労困難さ |
よくある失敗パターン
- 休職用の診断書をそのまま退職の場面に流用し、会社側に「休職を前提とした内容」と誤解されてしまう
- 退職後も療養が続いて30日以上働けない状態なのに、受給期間延長の手続きを知らず、基本手当だけを申請しようとして要件を満たせず戸惑ってしまう
- 「診断書さえ出せば手続きが自動的に進む」と思い込み、会社への確認やハローワークへの相談を後回しにしてしまう
いずれも「診断書は目的ごとに確認してほしいポイントが違う」ことを知らなかったために起きやすいパターンです。退職・休職・雇用保険の手続きをまとめて考えている場合は、どのタイミングで何を伝える必要があるか、あらかじめ整理しておくと安心です。
よくある質問
Q1. 3枚とも別々に発行してもらう必要がありますか?
必ずしも3枚バラバラというわけではありません。ただ、それぞれ確認してほしい内容が異なるため、「これは退職の相談用」「これは雇用保険の手続きの参考資料」というように、目的を医師に伝えたうえで作成・追記してもらうのが確実です。
Q2. 診断書の作成費用はどれくらいかかりますか?
医療機関によって異なりますが、一般的な診断書は数千円程度が目安とされています。目的に応じて複数枚が必要になる可能性がある点は、事前に想定しておくとよいでしょう。
Q3. 病名を会社に知られたくない場合はどうすればいいですか?
退職の相談段階では、病名を明記せず「心身の不調により療養が必要」といった記載にとどめてもらえることもあります。ただし、休職制度を利用する場合は、制度の性質上、病名や症状の記載を求められることが多くなります。
Q4. 退職後も体調が回復せず、すぐに求職活動を始められません。どうすればいいですか?
退職後、心身の不調により30日以上続けて働けない状態にある場合は、雇用保険の「受給期間延長」の手続きを検討できます。回復して求職活動ができる状態になってから、あらためて基本手当の手続きに進む流れです。詳しい要件や手続きは、管轄のハローワークに確認することをおすすめします。
Q5. 会社が休職用の診断書を受け取ってくれません。どうすればいいですか?
診断書を提出しても、会社の休職制度の対象外と判断されるケースもあります。就業規則の内容を確認し、納得がいかない場合は労働基準監督署や社会保険労務士など、第三者機関に相談する方法もあります。
まとめ
適応障害を理由に退職・休職・雇用保険の手続きを進める場合、診断書は目的によって確認してほしい内容が変わります。
- 退職の相談:心身の不調による就業継続の困難さが伝わればよい
- 休職制度の利用:病名・療養期間の見込み・就業上の配慮が中心
- 雇用保険の離職理由確認:病気等で離職に至った事情と、当時の就労困難さが中心(回復時期は、受給期間延長のあとの求職再開時期を考える際の情報として別に扱う)
「診断書は1枚あれば十分」と思い込まず、これから先どの手続きを予定しているかを早めに整理し、必要であれば医師にその目的を伝えたうえで作成・追記してもらうことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報を整理したものです。個別の状況によって扱いが異なる場合があるため、実際の手続きにあたっては主治医、勤務先の人事担当、最寄りのハローワークに直接ご確認ください。

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